TEISCO 100F VCOについて



* TEISCO 100F VCO



* 100F VCO antilog 省略 VCO部分のみ

TEISCO 100FのVCOは高速の reset型VCOです。 ここではこのVCOのコンパレータ部分とQ3の Tr. SWを中心に考えてみます。 上図にantilog電流源を省略した100F VCOの core部分を示します。

このVCOはrest型ですが、reset型によくある高域の発振周波数補正用のRがありません。 それだけコンパレータやTr. SWが高速だということなのでしょうか?。

このコンパレータ部分はTr.を使ったシュミットトリガーで一見、差動回路を利用したコンパレータ回路のようにも見えます。 比較的古い参考書などには回路が出ています。  差動回路を利用した場合はSW動作時でも両Tr.は飽和しないようですがこの回路の場合Q1はコンパレータOFF時に飽和、Q2は飽和しません(*1)。 構造的には差動的な要素もあるので差動のメリットはやはり享受できています。

Q3は単にTr.のSW回路ですからONで飽和しそうですが(*2)、B-C間が順バイアスになるのはQ3がOFFにいたる最後の方です。 Tr.のSW動作においては飽和でベース領域にたまった余剰キャリアがSW OFFで逆方向に流れます。 この排出処理が完了しないとcapacitorの再放電が始まりませんので コンパレータONからOFFさらに余剰キャリアの排出時間までがデッドタイムとなり高域での発振周波数誤差に影響します。

*1:Vbcが順バイアスにはならないが使用する Tr.によっては飽和する場合もある。
*2: Vcapが+10V近くまで上がった状態では構造上飽和するのは当然だか飽和してから
  Q3がOFFするまでの時間が短いのでOFF近くで飽和となるのでしょう。


この回路においてはQ2は明確にB-C間が順バイアスにはならないですがSW回路なのでhFEは正常な値ではないわけでやはりベース領域における過剰キャリアは発生します。  100Fではこの余剰キャリア排出の流れがスムーズであり、各Tr.も必要以上にオーバードライブされていないこと、コンパレータのON/OFFが正帰還によって高速です。 またQ3のドライブ過程が少々トリッキーでこれが高速動作に一躍かっているようです。 単純に回路を一読しただけではこれらの技はわからず、私としても100Fの VCO回路は特に最近まで興味がわきませんでした。


2SC1815/2SA1015のモデルでシミュレーションして見たところ

1: コンパレータONから完全OFFまで(*1) ................ 0.13uS
2: コンパレータOFFからSAW波が下がり始める位置...0.23uS
3: TOTAL= (1)+(2) = 0.36uS

*1: Q1とQ2のベースの差=0から再度差が0になるまで

上記の結果はあくまでシミュレーション値ですが高速であることは確かでしょう。 実機では(2)のVCOが定電流源によって再放電を開始するタイミングがはっきりはわからないので正確性はかきますが、実機をお持ち方の確認ではこのシミュレーションと同じかさらに高速だということでした。 コンパレータがディスクリート構成なので色々技が使えるということなのでしょう。



* 発振 *


SAW波1周期
水: Vcap: SAW波(capacitor両端)
白: Q3 Vbe
緑: Q2 ベース(閾値 システリシスを持つ)

波形は DOWN SAW波。 capacitorの片側が GNDでもう一方が PNP Tr. Q3のコレクタにつながる形。 Q3のエミッタは+10V。 10Vに充電された電荷を定電流源により定電流放電する形。 コンパレータONで再充電が高速でなされる。



* コンパレータの ON/OFF
白: Q1 Vbと Q2 VBとの差 (Vsa) コンパレータのON/OFF状態を示す
黄: Q2 Vb (閾値 Vth)
緑: Q1 Vb
桃: Q1 Vbe
水: Q2 Vbe

Q1 Vbe1とQ2 Vbe2の稼動範囲がとてもせまい。 コンパレータON/OFFにおける正帰還構造と差動的動作による高速性。 ON/OFF区間でのVsaの変動範囲もとても狭く(80mV)、ON時で Q1 Vbe1 < Q2 Vbe2にはなるがQ1のVbe1はそれほど低下しないことが特徴。



* Vcap(capacitor両端子間電圧)と Q1 Vb、Q2 Vb 、FEToutの関係



説明


SAW波の電圧低下(定電流放電)からコンパレータON のフェーズ

capacitor C1はantilog電流源により定電流でantilogに電流が流入する方向で放電されているのでカーブは下降SAW波となり10Vから下降。

FET OUTの電位が1.5Vより大きい間は Q1は活性化しており(飽和している *1) Q2は逆バイアスで Cutoff。 このため Q1側のコレクタの5.6Kには電流Icが流れQ2側の5.6Kには流れていない。

*1: Q2のVbeが活性化しないためにR1=5.6Kの電圧降下が大きいのでVce1は小さく結果Q1は飽和。

Q1は活性化している状態ではR1=5.6Kの電圧降下によって飽和しているがQ2が活性化する少し前の段階から飽和が解消され コンパレータON時は飽和していないがコンパレータOFFになると再度飽和する。 このためQ1の飽和に対した過剰キャリアの排出はコンパレータの状態が急変する直前に行われる。(排出量は少ない)


* Q1のIb1とIeは拡大。 Vsa=Vb1-Vb2

Q1の過剰キャリア排出はコンパレータONの直前からIb3がピークになる期間に行われる。 この区間では Q1のIe1が急変するので Ib1の逆方向電流はIe上での変化はよくわからない。 Ib3がピークから急低下する時間では コンパレータがOFFに向かう区間となるためQ1のVbe1もMIN値から上昇に転じそれが排出にも影響するのでしょう。

Q2のベースすなわちコンパレータの閾値電圧はQ1アクティブ時 Q1のコレクタ電位の分圧で0.5V程度の電圧が発生している。 この電圧は Q1のIcに依存するのでQ1のIcの低下を受けて上昇しコンパレータ ON時は 1.5V程度の閾値となる。(Q1とQ2のVbが同じになるタイミングでコンパレータONが起動)

一方Q1のベースはというとSAW波(FEToutの電圧)がダイレクトにかかっているわけではなく5.6Kを介してかかっているのでほとんどSAW波の変化がQ1のベースには伝わらなく5.6K側にかかっているのでコンパレータ ON直前まで1.7Vくらいにしかならない。 Q1のVbeも変化は小さくほぼ変化しない。

Q2のVbはQ1のコレクタ電位の分圧なのでIc1が流れている状態ではVbは小さい(0.7V程度)  Q2のVbeはQ2がcutoffしているのでマイナスであり,SAW波の下降を受けて少しは上昇するが変化は小さい。

5.6Kの抵抗がベースに入っていることにより一般的な差動回路と異なり、cutoffしている Tr.に分圧電圧は伝わらず、変化は5.6Kの抵抗にほぼすべてかかっています。(Q1のB-E間微分抵抗が小さいので分圧はほとんど5.6Kに)

SAW波が1.7V以下にならない状態ではコンパレータ動作に変化はありません。 1.7Vを下がってくると状態は急変し、Q1のベースに SAW波の変化が伝わるようになります。 すな わち Q1のB-E間抵抗が大きくなるので。 これによりQ1のVbeはSAW波の変化を受けて低下し Q1のIcが低下するため逆に Q2のベースの閾値があがりかつQ2のVbeが活性化に向かってマイナスがからプラスに上昇し、Q1とQ2のベース電圧差はSAW波の下降でどんどんちじまっていき0になります。


* 単純DOWN SAW波(VCOの cap電圧でなく) に対するコンパレータ ON付近の電圧
* VB1, VB2, VBE1, VBE2, VSA=(Vb1-Vb2)
* Vcap (ここでは R6に印加する 下降電圧のこと)

Q1とQ2のベース電圧の差(SA)が0になる付近で各素子の状態が急変してコンパレータONにいたる。

正帰還反応により閾値が Q1のベース電位に近づいていく一方Q1のVbeの低下も加速しているので一気に Vb1とVb2が同じ値になりコンパレータON 。



コンパレータ ONのフェーズ

Q1、Q2のベース電圧差0の時、 Q1とQ2の Icは同じ値です。 ここでQ2のVbeは上昇する方向、Q1のVbeが下降する方向となりさらにQ1のベース < Q2のベースになった瞬間に Q1の Icが急低下, Q2のIc=MAXと状態は急変しコンパレータON開始、 Q2側の5.6K抵抗に大きな電流が流れて Q3をONさせます。 と同時に Q1の Ic急低下なので Q2のベースの閾値ははねあがり4V以上となるのでこれによりヒステリシスがはたらいて即座にコンパレータはOFFしません。

一方 Q3がONするので capacitorは急速充電して SAW波電位が一気に反転して +10Vに向かいます。 当然 Q1のベース電位もSAW波上昇に引っ張られて上昇しますが、Q2のベース電位上昇によりIc2が増えたことによりIeも増えエミッタ電位の上昇率の方が大きいため Vbe1は逆に低下しています。 ここはとても差動的な反応です。

エミッタ電位の上昇率はQ2のベース電位と同じになり結果 Q2の Vbeは初め少し上昇しあとは0.7V程度で一定となり Q1は基本 Q2のVbeの上昇に対して逆にVbeが低下するように動きますがそれほどの低下はないです。


* コンパレータON/OFF付近の電圧関係図( Vbe1, Vbe2, Vb1.Vb2.Ve )
* Vbe1(白), Vbe2(緑), Vb1(桃).Vb2(水).Ve(青)

上図のように Vbe1、Vbe2ともコンパレータON/OFF区間での変化は最少におさまっています。  PUT VCOなどと比べるとその差は歴然です。(PUT VCOはオーバードライブされやすい)



コンパレータOFFに向かうフェーズ

さらにSAW波の上昇電圧が上がってくるとQ1 Vb上昇でQ1のVbeが上昇するので Q2のIc低下、 Vbe2の低下、Q1のIc増加が続き(正帰還ループ) FEToutが5V程度になりQ1のベース電圧がQ2のベース電圧と同じになった(Q1 Vbe=Q2 Vbe) 直後に コンパレータが OFFします。 そこで Q2 Icは 0に向かって Q1の Icは ON以前の値に復帰。 Q2のベース電位(閾値)は定常値に復帰し、 Q2のIc=0 Q1のIcが定常値にもどります。

この際 Q2の余剰キャリアが逆ベース電流となってQ2ベースから22K/100p --Q1のコレクタ -- エミッタ経由で Q2のエミッタに流入してキャリアが元にもどります。


コンパレータ ON/ OFF付近
* Vcap(赤)、Vb1(緑), Vb2(桃)、Vbe3(白)



* コンパレータ ON/OFF 付近 拡大 ( Q1Vb > Q2 VbになったとたんOFF)
* Vb1とVb2の差(橙)、Vbe2(赤)、Vbe1(水)、Vbe3(白)

Vb1とVb2の差のカーブの変化がとても機敏。



Q3が OFFに向かうフェーズ

コンパレータOFF、この時点で Q3はまだONしています(SAW波はまだ5V程度で10Vに上がりきらない) のでcapacitorはまだ急速充電中です。 どうしてコンパレータが OFFになっても Q3の Vbeは0にならず Q3はONを続けられるのか。

これはQ3の余剰キャリアが ON時と逆方向のベース電流として流れるため Q2側のR3=5.6K抵抗に電位が発生するためです(*1)。 余剰キャリアが排出されると同時に Q2の5.6Kの電圧降下は 0、Q3 Vbeは0Vになりこの時点で SAW波の電圧は +10Vの最大値になっています(*2)。 この時点でQ3は実質OFFなので 定電流源による放電が開始され SAW波電圧は低下していきます。

*1: 余剰キャリアの排出方向が逆ベース電流となってQ3のエミッタ -- +10V電源 -- Q1の 5.6K -- 100P -- Q3のベースと流れます。 この方向は Q2の5.6Kにとっては正常方 向で Q2の5.6Kに発生する電圧すなわち Q3のVbeは余剰キャリアによって発生してい る電圧です。

*2: 正確にはVcapはMAX値から下降し始めている。



水: Vbe3
黄: Vce3
白: Vbc3
橙: Ib3(拡大)
緑: R3 5.6Kにかかる電圧

カーソル位置が飽和終了位置。
Vce3は最少(飽和最大)で5mV程度でありこの位置が VcapのMAX値。 図中で118.87uSの位置でVce3が低下し始める位置(Vbc3も同様な低下を示す)





電圧関係



白: Q1のVbe: コンパレータON/OFFでもほんのわずかしか変動しない。
橙: Q2のVbe: コンパレータON条件前から急激に変化 OFF後も急変化して逆バイアス
赤: Q3のVbe: コンパレータはOFFしても急には低下しない。
緑: Q1のVbc: コンパレータON期間は飽和していなくOFF後に飽和が続く
水: Q2のVbc: 飽和しない
桃: Q3のVbc: コンパレータOFF後に飽和




電流関係



桃: Q2のIc:コンパレータONで急上昇、OFFで急低下
水: Q1のIc:コンパレータONで0近くに。OFF時Q2の過剰キャリアの排出経路になる
橙: 共通エミッタ電流:コンパレータOFF直後大きく増えるのは飽和によるIb1の増加
黄: R3(Q2の5.6K抵抗)を流れる電流:コンパレータOFF時Q3の過剰キャリア排出経路
灰: R1(Q1の5.6K抵抗)を流れる電流:
白: Q3のIb3:コンパレータONで急上昇、OFF後過剰キャリアの排出、方向逆転


Q3は飽和していないといえどIb3とIc2がほぼ同程度の電流値なので、Q3のベースには充分な 過剰キャリアがたまっているでしょう。 また図には Q2のIb2は明記していませんがIc2/Ib2=10程度なのでやはりこちらもVbc2が順バイアスにならないといえ過剰キャリアの蓄積はあります。

コンパレータON時、Q1の Vbe < Q2の Vbeなので差動電流は全て Q2のIcに流れて Q1のIcは0になると思いきやIc1の低下はそれほどではありません。(他のTr.モデルでシミュレートすると0になったりするので過渡現象のシミュレーションは難しいと思います)。

グラフでは Q2のIcが本来の差動共有電流よりはるかに大きくなっておりその電流は 差動の共有エミッタに流れ込むのでエミッタ電流もほぼ同じ値。 これはなんなのかというとQ3のベースについている speed up capacitorを流れる電流が流れた先がQ2のコレクタであるということ。 こんなに大量の電流が最終的に差動のエミッタに流れはしても 差動回路の特性から Q1, Q2のトランジスタの Vbeには影響していないのが特徴。

Q2の5.6Kに流れる山型の電流はなにか言うと前半はQ3のベースについている5.6Kに流れる電流で後半はQ3ベースの100Pに流れるQ3の過剰キャリアの排出電流です。 山の前半は SW ON後は電圧の急変かを受けて電流は 100Pの Cに多く流れてしまうが時間経過後Cのインピーダンスが高くなり電流は 5.6K側に流れ始めるという反応。


* Q3まわりの電流値対比

* 白: Ic3
* 水: Ib3 60倍に拡大
* 橙: R3(R5.6K) 60倍に拡大
Ic3 : Ib3 = 60:1 程度 SW動作時Q3の最少hFE=60程度



* Capacitorに対する充電と放電


コンパレータが ONしQ3の Tr. SWがONして capacitorが再充電され、充電が完了して SWがOFFして再度、定電流源による放電が開始されるまでの様子を上に示します。 capacitorを再充電している最中もQ3は定電流源に対しても電流を供給しなければなりません。

1: Q3の充電電流Ic3はCap.と定電流源の両方をドライブ。
2: Q3は定電流源に対して電流供給するのがやっとの状態。この時点で Vcap=MAX
3: Q3のドライブ能力低下によって Cap.からも電流が定電流源に供給
4: Q3によるドライブでなく Cap.から電流が供給されて定常状態(定電流放電)になる。

定電流源をQ3がドライブしきれなくなるくらい電流が低下すればCap.の充電が終了して通常サイクルに戻る。 この回路はコンパレータとQ3のTr. SW回路は独立した存在なのでコンパレータがOFFすればあとは時間と供にQ3がOFFするはずです。

これに対してPUTを使ったVCOなどのように機能が分離していないケースでは定電流源電流が大きい時にCap.に対して充分充電(放電)が終了してかつまだSWのVbeが高い値にあった時、電流源とTr.の間に平衡が起きてしまいSW(Q3)がOFFしない場合があります。



状態遷移図(capacitorの充電開始から充電完了して再放電開始まで)


* Ib3、Ic3は拡大(倍率は異なる)
* Vcap: capacitor両端子間電圧

Ib3が急低下して0になってもIc3は急低下するも変化はIB3よりゆるく、まだ電流がある。 これはVbe3がまだ保持されていて Q3においてはIb3の過剰キャリアの排出と、 Ic3の通常動作が同時に行われているということなのでしょう。(逆方向Ib3 >> 正方向Ib3か)



100F VCOの技

Q3のSW動作が前半 と後半で異なります。

前半

コンパレータONを受けてQ3のB-E間に電圧がかかり100pのCによりオーバードライブ状態でありますがこの状態で Q3は飽和していませんのでトランジスタは電流源として大電流をcapacitorに流し込んでいるイメージでしょうか。 Ie3 / Ib3の比率が50くらいなので hFEは50に低下しているような状況ですが普通の Tr. SWほどは飽和していない状態(*1)。


SAW波電圧が3V程度になるとコンパレータがOFFに向かう過程が進行しIb3はここをピークとして急低下。 Ic3はまだ上昇していますので ここでの hFEは50から100程度に上昇していきます(正常な分配比にもどるべく)。 さらに Ib3が0になるところでIC3はピークを迎えます。 capacitorの両端電圧Vcapは電流値の積分ですからまだ上昇しますがカーブが少しゆるやかになります。

この時点でQ3は飽和はしていません(B-C間逆バイアス)がベース領域には過剰キャリアがたまっているのでしょう。 ここの時間では単にQ3は SWとして機能しているというかQ3 Vbeは コンパレータのQ2の Ic2が R5=5.6Kを通過する際の電圧降下ではドライブされていないのにもかかわらず、SWとしてONが続いているイメージです。 これはどうしたものか?

*1
前半では Vcapの上昇がまだ10Vにはほど遠いのでQ3の C-E間は大きい値であり飽和はしない。

Q3のB-E間に電圧を与えている元はR3=5.6Kの電圧降下。 これの元はQ2がアクティブになったことによるQ2のIc2である。 ただしIc2のすべてがR3を流れているわけでなくごく一部である。  と言うのも Ic2は本来の Vbe2の値に対応した量にプラスしてQ3のベース電流Ib3がQ2のコレクタに流入した分が加算されている。 R3にはIc2 - Ib3分の電流が流れていて、R3の電圧降下は MAX 3V程度。

Q3のB-E間にダイレクトに電圧が印加されるわけではなくR8と100Pの並列インピーダンスが入るのでここで負帰還されQ3 B-E間に加わる電圧は制限される。

コンパレータOFFで Ic2は無くなるので本来なら R3の電圧降下は無くなるはずだが実際はなくならない。

前半部分では
Ib3の大幅な変化に対して B-E間に電圧をかけているR3の電圧降下は全く影響をうけず、あくまでR3はQ2がONしたことによるIc2の変化に依存しています。

後半部分では
逆に Ib3は R3の電圧発生に100%関係しています。(下記の説明)



後半

Ib3は過剰キャリア排出の為に電流が逆方向に流れます。 これが逆ベース電流として Q3エミッタ ---> +10V を経て Q2側のR3=5.6Kに流れさらに100P(*1)を通過してベースに戻る。

R3の電圧降下による電圧の発生が100pで分圧され残りがQ3のVbeとなりつりあっている 。 すなわち コンパレータがOFFして R3=5.6KはIc2による電圧降下が発生しないがかわりに逆ベース電流によってQ3のB-E間に電圧を供給するための電圧降下が発生している。  このVbe3がCap.に電流を充電するためのIc3を生むという構図。

 *1: 100p側のみに通過

Ib3の逆方向電流のマイナスのピーク位置で Q3は飽和してB-C間は順バイアスとなる。

このR3の電圧降下電圧は capacitorの放電電圧と同じなので序所に減っていく。 減っていくに従って Q3のC-E間抵抗値が上昇。 最後には Q3が本当に OFFする。 と言うように capacitorの急速充電は 2段階になっている。

普通なら SAW波電圧が10VになったらコンパレータをOFFさせるという動きになるのを早々にコンパレータをOFFさせあとは惰性で SAW波の上昇を促すような感じ。(坂道を自転車で下るような反応か) その惰性の処理にSW動作では厄介な余剰(過剰)キャリアの排出を利用することによって、その充電終了スピードが早くなっているということでしょうか。



Q1、Q2、Q3における過剰(余剰)キャリアの排出

コンパレータがOFFに向かう時、Q2がcutoffに向かい 逆にQ1が再浮上に向かうわけですがその際、Q2が過剰キャリアの排出過程での方向とQ1が再度Vbeが上昇しIcが増える時の電流の流れが同じなので無理なく、さらには強力に正帰還がかかり、またspeed up Cによって短時間で排出が行われます。 Q3とQ2の排出経路が分離されている。 これぞ電流交通整理の妙か(下図)。


過剰キャリアの排出経路


* 過剰キャリアの排出ループ

* SW OFF後の過剰キャリアの排出方向は Ibは逆方向、Icは順方向、IeはIbとIcの和となる。 上図ではIcは省略してIbのみを列挙。

* Q1のIc1とQ2のIb2の電流経路は同方向。
*Q3のIb3は単独経路。 Q3のIc3は定電流源に流れる。



* 過剰キャリアにかかわる各電流の変化

緑: Q3 Ib3
水: Ic2側のR5.6Kに流れる電流
桃: Q2 Ib2
橙: Q1 Ic1
白: Q1 Ib1


Q3まわり

過剰キャリアの逆方向電流をR3=5.6Kの電圧発生(降下)に利用してVbe3を保持しながら序所に終結、、コンパレータOFF後のQ3の充電電流を発生させている。


水: Ib3
緑: R8を通る電流( Ic3とリンクした正方向のベース電流)
橙: 100P Cap.を通る電流(過剰キャリア排出)

上図から逆方向の過剰キャリア電流は 100Pのcapacitorを通る。  Q3のIe3の分流要素たる 本来のIb3はR8の5.6Kの抵抗を流れるというトリッキーな反応。



Q2まわり

Q2の過剰キャリア排出におけるIb2の逆方向電流は瞬間的に流れ終了する。 これは上記の Q3の Ib3に比べて顕著である。 両者とも speed up Cap.の効果はあるがそれ以上に Q1再浮上、Q2は cutoffに向かう正帰還的流れのなかに過剰キャリアの排出経路、方向がマッチしたことに原因があるのか?。 そもそもQ2はコンパレータON時でもB-C間は順バイアスにはならないので過剰キャリア自身も少ないのだろう。



Q1まわり


* Q1飽和解除タイミング

橙: Q1 Ib1(拡大)
白: Q1 Vbc1
赤: Q1 Vb- Q2 Vb (SA)
青: FET OUT

コンパレータONの2.5uSくらい前からQ1の飽和が解除されるが、過剰キャリアの排出はすぐには 起きないもよう。 飽和の解除は Q1のIb1が微少電流になりhFEの正常化と供にIc1の低下によってR1=5.6Kの電圧降下が小さくなるために起きる。

Q1の過剰キャリア排出はコンパレータONの直前からIb3がピークになる期間に行われ  Q1のベース -- R6 -- R7 -- -15V -- GND -- エミッタ抵抗R2 -- Q1のエミッタという経路 を流れる。 これはコンパレータ ONの最中に行われ排出量も少なくデッドタイムを作る原因にもならないようだ。 排出量の少なさはコンパレータのONからOFFが早いので排出する間もなく状態が再度飽和に急速に戻るためかも知れない。


過渡現象は複雑でシミュレータ無しには理解できない現象だと個人的には思います。 特に 電流関係がオシロでは充分確認できないため現物だけでは動作がわかりません。 過渡現象のシミュレーションは条件がちょっと変わっても結果が大きく変わることもあるためあくまでシミュレーション結果は参考ですが、動作原理を理解するには有用です。

次は実際にこのVCO回路を製作して現象の検証をしたいと思います。 いつになるやら....。


100F VCOの実験

実際に100FのVCOを作って実験してみました。 製作基板を以下に示します。


* 簡易VCO基板: VCO部 6Tr. antilog部 2Tr.のシンプルなVCO

dual Tr.等は使用せずcapacitorも普通のマイラー、 oct/Vの調整VRも付いていません。 2SC1815が5個、2SA1015が2個、 2SK30Aが1個、78L10が1個です。 tempco抵抗もとりあえず無し。

antilogは ARP式の簡略版、 SAW波のみ出力。 sync 入力付き、VR類はなにもつけていません。 発振を確認して、コンパレータがONしてから再充電が始まるまでのデッドタイムを計測しました。

antilog 入力には何もいれない状態で10.7KHzの発振です。 FEToutで見たSAW波においてはデッドタイムは 0.2uS以下でしたのでシミュレーションの0.36uSの約半分ぐらいの時間になっています。


* FET out (時間軸 0.5uS)

100Fでは VCOのSAW outはエミッタフォロワが付いていてそこから取る形になっていますがそこの波形を見ると急上昇カーブがなまっていて上記のデッドタイムに相当する部分は 1uS以上ありました。 ただあくまで発振に影響しているのは FET out部分の出力なので VCO自体は高速です。


* エミッタフォロワOUT (時間軸 0.5uS)

これはエミッタフォロワがちょっと特殊な構成でベースについている100Kの抵抗による効果のようで故意に行っている小技のようです。 これはSAW波の振幅がMIN値からMAX値に大幅に電圧変動する際に瞬間的にエミッタフォロワは通常電流の何倍ものベース電流が流れます。 ベースに抵抗がなくてもベース電流の一時的な増大はありますが抵抗がなければこの電流は出力電圧に対しては影響ないようですが、ベースに高抵抗があれば電圧降下が大きくなるので出力電圧は入力電圧に追従せず立ち上がりがなまります。

すなわち急激な変化に対しては負帰還が十分効かず入力インピーダンスが下がってしまうということでしょうか。 しかしベースに抵抗がなければ出力電圧には影響が無いことから考えるとこれはやはりおそらく何かの対策なのでしょう。 なおシミュレータによるとSAW波の立ち上がり時間が2uS程度に低下するとベース電流の急増加はかなり低減されます。 この値はなぜか100K抵抗付きのエミッタフォロワ出力のrise timeと同じような値になっています。


* FETout、EFout両者の波形の立ち上がり比較 (時間軸 0.5uS)



* 各波形のシミュレータとの比較


* Q1 C、 Q2 C、 Q3 B


* SAW波(capacitor out)とコンパレータQ1のコレクタ (時間軸 1uS)


* SAW波(capacitor out)とコンパレータQ2のコレクタ (時間軸 1uS)


* SAW波(capacitor out)とTr. SW Q3のベース(時間軸 1uS)

おおむねシミュレータに近い波形。 Q3のベース波形はより実機の方が複雑。



100F VCOにつまみをつける

coase、 fine tuneつまみと CV offset抵抗をつけ oct/V SPAN調整用 potまわりをつけ capacitorをスチコン(容量は680pに変更)、 SPAN温度補償用tempco抵抗をつけ、oct/V調整VCOの安定度等を測定しました。


oct/Vのスパンの分圧は 105K + 10Kpot(非多回転) と 2K tempco抵抗との分圧で調整。

 CVのマイナスシフトは-15V .. 150K抵抗で 約 -11Vshift
 coase tune は +15V ... 235KΩで約6.9V max
 finetune は +15V .. -15V ... 3.3MΩで約 +/-0.5V


このantilog 回路のCV mixはOPAMPを使ったものでないので仮想接地のメリットを受けられないので分圧は他のCV inの抵抗全部の影響を受けることもあってかKEY CVのみに対してoct/Vの potが付いています。 ARPのオリジナルのantilog回路では分圧抵抗は1.87Kですがここでは 2Kのtempco抵抗を使用しました。 上記回路で Key CVの分圧抵抗が109K程度 で分圧は 1Vに対して18mVになります。 多回転potでないので調整がシビアにはできませんが106.5K + 5K potという構成にすれば調整が少しは楽かも。 素直に10Kの多回転半固定を使うのが楽かもしれませんが実験レベルではこれでよしとします。

oct/Vのスパンは27.5Hzから3520Hzの7octaveに関してはトラッキングしており、3520Hzから7040Hzの次のoctave間では1.4%ほど幅が大きくなり次のoctave間14080Hzの間では大幅にSPANが短くなり17%の誤差が発生。 よって7.5octave程度はとりあえずOK。

VCO core部分の性能としてはこの程度の周波数(20KHz程度)ならリニアに電流と周波数の関係は追従しそうですので誤差はantilog ampの問題でしょう。 このARP式の antilogの場合今回用いた定数ではCV=0V以下ではシミュレーション的にはantilog特性が出ています、CVのマイナスシフトと上記周波数におけるcoase 、 fine tune Key CVを全て足した値がCV=0Vを超えるにはまだ十分余裕があるのですが。

まずはPNPエミッタフォロワ出力がCVに対してリニアに追従しているかですがこれはCV=0V以下ではOKですのでNPNの antilog Tr.の特性の問題でしょうか。 普通のOPAMP + dual TR.でのantilogでも広範囲をカバーするためにはエミッタバルク抵抗の対策回路が入っていたりしますので無対策ではこのくらいが限界か。

* ARP型antilog ampのエミッタバルク抵抗の対策回路


* Electro notesより

上記回路は Electronotesに載っていたものですが、補正回路を用いると antilogの規模が2倍以上になってしまいます。


次はPWM回路です。



TransistorによるPWM回路

100FのPW回路はduty50%の固定パルス幅です。 以下に100FのSAW波発生部と矩形波変換回路を示します。 この矩形波回路はVCO本体のシュミット回路によく似た回路で構成されています。 この回路でPWMを可能にするにはQ6の閾値すなわち Q6のベース電圧を可変すればよさそうですがこの回路では閾値を変更すると他の部分に影響が出てしまうため、パルス幅固定に なっていると思われます(*1)。

*1: 実際は VCAのコンプレッサー機能との整合性を取るためPW幅は固定のようです。
  (VCF/VCA page 参照のこと)



100F VCO core + 矩形波生成回路


Tr. onlyの PWM回路ということでここではARP avatar等のARPのmonosynthに採用されている回路を利用することにしました。 この回路は上記100Fの矩形波変換回路と同様の回路ですがパルス幅可変の回路に工夫が施されていてPWM可能ななユニークな回路です。 構成は Tr. 3石。

100FとARPのVCOではSAW波のレベル、offset電圧等が異なるので100F VCOにあわせて定数等を可変しました。


* ARP方式 Tr. PWM回路を100F VCOに合わせて変更


ARP PWM回路動作原理


* PW波形


* 50%パルス


* 極小パルス幅

pulse幅がおおきくなる本来の矩形波形の水平部分に下降SAW波のカーブが若干出てしまいますがおおむねきれいな波形。


10 Tr. + 1 FET 構成の transistor VCO


これで all transistor構成のVCOが出来上がりました。
transistor onlyのVCOとしてはかなりシンプルな構成ではないかと思われます。

後続のS110FではSAW/TRI/PWMがあるのでPWMは三角波をコンパレータに通して得る方法になっておりSAW波発生時のコンパレータは100Fと同様に回路です。



* 100F VCF/VCA

 100FのVCOのクオリティに感激したのでついでにVCF/VCA unitも製作してみました。

 100F VCF&VCA回路の製作



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